私たちの相談室は神奈川県横浜市において2か所あります。神奈川県、そして横浜市というと日本の中でもかなりの人口密集です。その意味では、ご相談内容の傾向やその移り変わりがわかりやすいところがあります。しかしながら、唯一変わらないことがあります。それは問題を抱えている本人、すなわち中学生や高校生はすぐさま相談に現れないということです。ここが思春期の相談やカウンセリングにとって難しいところです。保護者のかたがたが大変な思いをして医療機関の予約をとってくださることが多いと思いますが(人口密集地域ですと3ヶ月から半年はお待ちくださるでしょうか)、いざ予約日になると本人が動かない。とてもあるあるのことだと思います。もしかしたら小学校4年生くらいから保護者のかたの勧めにこどもたちは乗ってこないかもしれません。
このことはよく考え見ると、自我の発達ということが関係していることだとわかります。言い方は「面倒臭い」かもしれませんが、おそらくは自我、自分、自己といったあたりの主体性の表れでもあるわけです。これは心の成長にとって望ましいわけですが、今はメンタルクリニックに行って欲しい、という保護者の思惑がありますから、大変困った自体です。経験的な言い方ですが、「ウツでつらい」と思っている子どもさんや若い人は意外とメンタルクリニックに行くことに肯定的だったり、積極的だったりします。ただしメンタルクリニックに行くことに肯定的だったり、積極的だったりするとウツであるという因果論ではないことにご注意ください。
ではカウンセリングルームやメンタルクリニックに行きたがらない場合はどうしたらいいか?
そもそも、中学生、とりわけ高校生の困りごとやお悩みのボリウムは、人間関係である場合は多いものです。この困りごとやお悩みを映写機に例えると、保護者のかたや場合によって学校の教員のかたが問題と見ているところは、映写機に映し出されたスクリーンの部分です。スクリーンの部分は何かというと、主には行動(問題行動)です。ですから行動(問題行動)ばかりに注目してしまいます。ここで、多少古い話になりますが、笠原嘉という偉大な精神科医の先生のアイディアを借用しますと、「困り事やお悩みを考えきれずに行動化する」という考え方があります。かなり抜粋していますので、笠原先生のアイディアはこれほど削ぎ落とした考えではないことにご注意いただきたいのですが、大変わかりやすい例えとも言えましょう。そこでこの例えを援用してみると、中学生や高校生の困りごとやお悩みの大部分は人間関係であり、それを行動(問題行動)で表している、ということもできましょう。そして人間関係のネガフィルムはある意味で親子関係です。ですからまずは親子関係の調整を考える、その上で何らかのメンタルヘルス上の課題があればメンタルクリニック等で治療をする、というのが正しい筋道ではありましょう。
心理学ではよく、事例化する、と言います。さまざまな心の問題にエッジをとり、課題を浮き上がらせるという意味です。思春期や青年期のカウンセリングで最も難しいのはこの部分なのです。そしてこの部分が実はもっとも相談員やカウンセラーの力量が現れるところです。こどもさんや若い人の心を見立てて、それに補助線を引く。簡単なようで難しい、経験のいる作業です。
私たちの相談室では、こどもさんや若い人の行動から、ご本人の困り感やお悩みを浮き彫りにしていくお手伝いをいたします。