◎この記事は横浜思春伊問題研究所の付属相談室『横浜保護者の相談室』の記事を転載しています
 私たちの相談室では、知能検査(WISC-Ⅴ)や心理検査を利用して、子どもさんや若い人の感じ方や考え方のありよう、すなわち『心の状態』と、子どもさんや若い人の集団の中でのふるまい、すなわち『適応状態』を丁寧に査定します。その査定の結果が、子どもさんや若い人が現在抱えている困り感やお悩み、すなわち主訴とどのように連関しているか仮説を立てていきます。この仮説こそ、続く相談と助言の道しるべとなります。
 さて、この20年ほどでメンタルヘルスの考え方も大層変わり、カウンセリングや心理療法という用語も日常語になってきました。ですから最近では「カウンセリングをしてください」というお問い合わせも多くなりました。おそらくは、今の悩みや困りごとにとってカウンセリングが有効なのだ、という確信をお持ちなのだと思います。しかしながら私たち専門家は、いきなりカウンセリングや心理療法を導入するといったことには慎重です。落ち着いて考えてくださるといいのですが、例えば、週1回50分ほどカウンセリングに来るとします。カウンセリングを始めて2回目から4回目くらいまでは、自分の話を熱心に聞いてもらえることの目新しさで、1回50分間はあっという間に過ぎることでしょう。しかしながら、5回目あたりからいよいよ話すことも無くなり、この1回50分間という時間がとても苦痛な時間になるものなのです。なぜならば、その1回50分の本来の使い方は、ご自身の悩みや困りごとについて考えるためのものであり、すなわち、つらく、苦しいことに50分間向き合い続けないとならないからです。ですからよくて5、6回続けてカウンセリングに通えれば良い方なのではないでしょうか。この記事では心理療法についての話は端折りますが、心理療法での50分間はカウンセリングよりももっとけわしい道のりが待っています。ここまで相談、カウンセリング、心理療法といった用語に対して厳密な定義をせずに話を進めていますが、これらの用語はいささか人によって使い方(定義といったらよいでしょうか)が違っています。ここでは大雑把にいって、相談は「かなり意識的、具体的レベルで抱えている問題の解決を考えていくもの」、カウンセリングは「カウンセラーと話をしながら自分自身の感じ方や考え方の癖を認識し、その感じ方や考え方が徐々に変化していくことを体感することによって悩み事や困りごと自体の捉え方も変化し、結果として悩みや困りごとがその意味を失っていくもの」、心理療法は「セラピストと話すことによって、自分が全く気づかなかった(気づいてこなかった)somethingによって、悩んだり、困ったり、生きづらかったんだと気づき、悩みや困りごとや生きづらさの人生上での位置付けが変わっていくもの」くらいに抑えておいてください。この記事ではこれ以上これらの用語の詳細には立ち入らないこととします。理解の補足のために、上述に内容をわかりやすくした図をこの記事の終わりに貼り付けておきます。
 さて、このようにカウンセリングをするといってもかなり大変なわけです。そこで私たちの相談室では、「まずは相談というレベルでやれることからやっていきましょう」というスタンスをとっています。子どもさんや若い人が相談室に来室されない場合でも、「まずは保護者のかたがご家庭で子どもさんや若い人へどのように関わればよいか」という助言から相談をスタートしています。実は相談といったレベルでも、状況の改善がかなり見込めるものです。まずはやれること、できることからやり始め、ちょっとやれなそうだなあ、できなそうだなあと感じた時は少し休む。ある意味でサーフィンのような気持ちで問題や状況の波に乗っていけばよいのです。このようなゆったりとした気持ちは、専門的にはレジリエンスという、難しい状況を甘受する、寛容するという保護者のかたに柔軟な態度を育みます。簡単にいうと、子どもさんや若い人の行動・言動に、「なに!なに!」と振り回されずに済むということとなり、結果として子どもさんや若い人が「あれ?親父(母ちゃん)変わったんじゃね?」と気づくようになるのです。ここまで来れば、子どもさんや若い人は、人のせいにせず(親のせいにせず)、問題や状況を自分のこととして内省し始めるのです。(この記事は続きます)